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2回も上京した看護師の話をしてみる

19歳の頃。
私は初めて上京した。

東京の看護学校に通うため、足立区に家を借りた。
友だちには恵まれた。
でも勉強とバイトばかりで遊ぶ暇はなかった。

実習が始まると地獄になった。
それでも3年後、無事に卒業できた。

私はそのまま東京で就職した。
大きな病院で、100人近い新人看護師がいた。

最初は大変だったが、1年も経つと仕事がそれなりに回るようになった。
先輩や同期とも仲良くなれた。

余裕ができると、東京を楽しめるようになった。
遊び好きの先輩がいて、色々と教えてくれた。
夜の街に飲みに行ったり、ネットのオフ会に参加してみたり、ダーツバー、スポーツバー、渋谷のハロウィン、芸能人の出待ち、コミケ、夜勤明けのホスト。

行きつけのバーもでき、大人になった気がした。
色んな人と出会って、いろんな話ができた。

給料は2年目で30万円を超えていた(夜勤手当て込み)
でも家賃の高さと、遊びまわる毎日で貯金はほとんどなかった。

そんな生活が5年続いた。
先輩達が次々と退職し、当時の同期もほとんど残っていなかった。

仕事のスピードに付いていくのが辛くなった。
丁度その頃、結婚を考えていた人と別れることになった。

チョット休みたい

そう思って私は退職した。
1ヵ月ほどでまた働くつもりだった。

でも仕事と遊びの激務から解放されて気が抜けたのか、次を決めることもなくダラダラとアパートに引きこもった。

外出するのはコンビニとツタヤくらい。
無職だと悟られないよう、19時ごろに外出していた。

ツタヤで借りてきたDVDを見る毎日だった。
バカみたいに自堕落な生活。

そんなある日、家のチャイムが鳴り響いた。

通販を頼んだ覚えはない。
ボサボサ頭、ボロボロ肌のすっぴん、ヨレヨレのジャージ姿。

居留守を決め込んだ。

ピンポーン
ピンポーン
ピピピンポーン
ピピピピピピンポーン
ピピピピピピピピピンポーン

激しさを増すチャイム。

ドン、ドン
ドン、ドン
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン!!!!!

普通じゃない。
完全に異常事態。

でも今さらどうにもできず。
私はアパートの片隅でガタガタ震えていた。

「おい!キヨコ!」
「いるんだろ!」
「出てこい!」

あ、
この声は、
親戚のおじさんだ…。

なおさら出るわけにはいかない。

ピピピピピピンポーン
ドン、ドン、ドン
「出てこい!」

ピピピピピピンポーン
ドン、ドン、ドン
「コラぁ!」

ひえぇぇーーー
頼むぅ…
帰ってぇ…

そんな状況がどれほど続いただろうか。
たぶん10分くらいだとは思うが、私には1時間にも2時間にも感じられた。

静かになった玄関をガクガク震える足で見に行くと、一枚のメモが挟んであった。

「福井のみんなが心配している。連絡しなさい」

「ごめんごめーんw」
「携帯壊れててさw」
「色々あってw」
「え?仕事?ちょっとねーw」

2日後、私は能天気をよそおって、実家に電話をした。
連絡が取れない私を心配して、横浜に住む親戚のおじさんに様子を見てくるよう頼んだらしい。

「おまえ本当は居たんだろ?」

おじさんにお礼の電話をした時、そう言われたが「ツタヤに行ってたw」と嘘を付いた。
でもたぶんバレていたと思う(^^;)

それから色々あり。
実家の福井にUターンすることになった。

最後のお別れ。
都会の刺激的な仲間達。
連絡を取って飲み歩いた。

「東京遊びに来てね」

みんなが声をかけてくれた。
嬉しかった。

アパートを引き払う前日。
行きつけだったバーへ挨拶に行った。

マスターは最後だからとカクテルをおごってくれた。

「キヨコは東京で何か見つけられた?」

私はなぜ東京に来たんだろう?
東京で何をしたかったんだろう?

思い出せない。
ただのあこがれだったのかもしれない。

でも「あぁ、本当に最後なんだな」と思った。
東京を去ると思うと寂しさがこみ上げてきた。
我慢していた涙が溢れ出した。

28歳の都落ちしたアラサー女。

地元に帰ってからは、友達によく誘われた。
家に招待してくれたり、飲み会を開いてくれたり、ランチを食べに行ったり。

でも次第にそれも減っていった。
既婚者とは生活リズムが合いづらい。
かつての同級生たちは、そのほとんどが結婚していた。

「いい人は?」
「予定は?」
「婚活は?」

久しぶりに会う誰もがそう言ってくる。

田舎では「結婚して、子供を産んで、家を建てる」のが当たり前。
それが普通であり、それができないのは「なぜ?」となる。

実家に帰ってからも無職でダラダラする日々。

父は「働け!」と烈火のごとく怒った。

「若いのに働きもせず」
「なまけもの」
「何も考えてない」
「働いてもないのに飯食うな」
「恥ずかしいから外に出るな」

帰ってきた当初は優しく接してくれた父だったが、1ヵ月も経てばこうなった。

単科の小さな病院に就職した。
とりあえずという気持ちだった。

仕事は良くもなく、悪くもなく。
いたって普通。
慢性期ということもあり、毎日とくに変りもなくただ流れてく。

同僚は年上の方ばかり。
家、子供、料理、そんな話題ばかりだった。
何となく合わせてはいたが辛かった。

2年ほど働いた。
辞めようとも思った。

でも小さな町では病院は限られる。

「◯◯さんが辞めた」
「◯◯さんがあそこに就職した」

そんな噂はすぐに立つ。
この職場を辞めるには、結婚するしかないのかもしれない。

30歳にもなって、未婚、子なし、予定も無し。
ここでは普通じゃない。

都会から逃げかえってきた、東京かぶれの、レールから外れた女。
ご近所さんにはそう映っていたようだ。

「結婚しないのか?」

家の居心地も悪くなっていた。

実家を出ようと思った。
アパートを探した。

でも見つからない。
田舎では単身者向けのアパートは数少なかった。
ほとんどがファミリー向けに作られている。

「なぜ一人暮らしを?」

不動産屋さんは困惑していた。

出してくれる物件は、古くてボロいか、新しいけど家賃が高い。
田舎とは言っても、家賃がそう安くなるわけではない。

5万円以内で借りられるのはボロばかり。
ちょっと綺麗なアパートに住みたいなら、7万円くらい出さなければいけない。

私の月給は手取りで18万円ほど。
東京で30万円以上貰っていたのが懐かしい。

「アンタは理想が高すぎる」

友達からそう言われた。
確かにそうかもしれない。

「福井でそんな良い物件ある訳ないやろ」

「でも駅前でマンション沢山作っているよね?」

「あれは私達が住めるところじゃないが」
「お金のある裕福な家族用ながいちゃ」
「それか都会のセレブの別宅」

結局、何も変わらない。
結婚もせず、家でダラダラ過ごし、ただ働くだけ。

貴重な時間をムダに消耗し、若さを削るだけの毎日に罪悪感があった。

どんよりした気分になる。

そんな時、東京の友達が遊びに来てくれた。

昼間は観光を楽しんだ。
夜は飲みながら私のグチを聞いてくれた。

グチの多さに友達は笑ってくれたが、ポツリとこう言った。

「また東京戻ったらいいじゃん」

え?
東京に?

また東京に戻る恥ずかしさ、住居を確保する面倒臭さ、仕事を探す手間、親の反対、世間体…。
無意識に「私には地元しかない」と思い込んでいた。

でもそれは自分でブレーキをかけているだけだった。

「ここで働くべきだ」
「ここで暮らしていくべきだ」
「早く結婚するべきだ」

こうした周りの価値観しか見えなくなっていた。
友人はそれをシンプルな言葉で教えてくれた。

私は東京に戻った。
2度目の上京。

1回目は東京への憧れ
2回目は自分の居場所に戻るため

私には地元より、東京が合っていた。
生まれ育った故郷は、私が思う以上に息苦しく、逃げ場のない場所だった。

・・・

そういえば最近。

「どうしたら上京できますか?」

と、Facebookで若い看護師の子から聞かれた。

「一度は東京に住んでみたい」
「でもそんな理由でいいのか」
「貯金も少ない」
「地元を離れるのも不安」
「都会でやっていけるかも不安」

たしかに、上京には沢山の不安がある。
それが足かせになってなかなか実行できない。

でも東京に住む人間から言えば「全然大丈夫w」だ。

例えば、勢いだけで上京する人は結構いる。
岩手から所持金3万円で上京してきて、ネットカフェに泊まって仕事を探して、今はグラフィックデザイナーをしている人。
富山から文無しで上京してきて、友達の家を渡り歩き、今は世田谷区で保健師をしている人。

これを地元の人に言うと「信じられない」「無鉄砲すぎる」「アホだ」と非難される。
でも東京の人に言うと「すげーじゃんw」「マジでw」と面白がられる。

東京には「勢いで上京してもなんとかなる」と思えてしまう雰囲気がある。
そのくらい選択肢は多いし、実際なんとかなる。

もちろん私のように慎重なタイプは、事前に住居と仕事を決めてから、上京したほうがいい。

例えば、転職サイトを利用すれば、全て手配してくれる。

・東京の品川エリア
・呼吸器科
・寮付き
・できれば慢性期

こうした希望条件を伝えれば、条件にマッチして、最も好条件の仕事をいくつかピックアップしてくれる。
私の場合は、転職サイトのアドバイザーさん予想以上に優秀な方で、良い条件の求人を見つけて来てくれ、面接、病院見学、入職までの全て調整してくれ面倒を見てくれた。
このサイトは上京ナースのサポートに力を入れているらしく、地方にいながらでも親切丁寧な支援が受けられた。

参考:私がお世話になった転職サイト

・・・

寮と仕事があれば、上京はぬるい。
感覚的には、地元で一人暮らしするのとそう変わりはない。

でも地元と大きく違うのは「自由」があること。
誰にも干渉されず、気の合う人達と付き合え、職場も自分の意志で決められる。

東京には色んな人がいる。
話をしてみると、変な人ばかり。

一癖も、二癖もある。
普通の人なんてほとんどいない。

東京では自分をさらけ出すことができる。
だからみんな変な人に見える。

けどそれを笑う人はいない。
色んな人がいて当たり前だから。

そんな変な人達と、毎日のように新しい出会いがある。

新しい価値観に触れ、新しい知識を得て、自分がどんどん変わっていくのが分かる。
人付き合いが上手になり、趣味も広がり、生きる選択肢も広がっていく。
そんな環境で成長しないはずがない。

「一度は東京に住んでみてほしい」

絶対に人生のプラスになるから(≧▽≦)